CHICCAブランドクリエイター 吉川康雄氏の契約満了について思うこと

 

2019年3月1日、メイクアップアーティスト吉川康雄氏がCHICCAブランドクリエイターから退任することが発表された。

 

カネボウ化粧品プレステージブランドであるCHICCAは2008年のブランド創設以来、吉川康雄氏による革新的なプロダクトを提案。

美容意識の高い女性を中心に愛され、2018年にはブランド誕生10周年を迎えた。

 

10周年を祝った次はどんなものを見せてくれるだろう。

ブランドの人気アイテムの一つである「メスメリック リップグロス」のリニューアル品としてこの春登場した「メスメリック グラスリップオイル」を手に取り、今後のCHICCAに期待を膨らませたファンも多い中、吉川康雄氏とCHICCAの契約満了が突然発表されたのである。

「CHICCAブランドクリエイター 吉川康雄 契約満了のお知らせ」

日頃よりCHICCAをご愛顧いただき
誠にありがとうございます。


CHICCAブランドクリエイター吉川康雄は、 2019年3月31日をもちまして契約を満了致します。

これからもCHICCAは、
「艶めく、ときめく。“インビジブルメイク”で、あなたらしい美しさを。」をブランドコンセプトに、
仕上りは素顔のように自然で、 “あなた”がきれいになるためのメイクアップを
大人の女性へ向けてご提案してまいります。


今後ともCHICCAをどうぞよろしくお願い致します。

 

現時点でわかること

CHICCAブランドサイトと吉川氏のSNSからわかることは以下の三点である。

・吉川氏とCHICCAの契約満了は2019年3月31日

・2019年クリスマスコレクションは吉川氏のプロダクト

・吉川氏退任後もブランド自体は継続

 

注目したいのは三つ目。

吉川氏ありきでプロダクト制作を行ってきたCHICCAだが、吉川氏退任後もブランド自体は残ると現時点で発表していること。

しかし花王が2018年5月に発表した“新グローバルポートフォリオ”(https://www.kao.com/jp/corporate/news/2018/20180518-001/)にはCHICCAの名前が掲載されておらず、今後育てていくブランドの数にも入っていない。

現時点ではCHICCAは今後も継続と発表してはいるが、ブランド終了、少なくとも縮小は避けられないことが容易に推測される。

 

CHICCAと吉川康雄氏はメイク難民の救い

ここまでCHICCAに起こったことと今後についてまとめた。

ここからはCHICCAと吉川氏について個人的に思うことを述べていきたい。

 

吉川康雄というメイクアップアーティストは私が美容ライターを初め、仕事としていった経緯を語る上でなくてはならない存在である。

 

吉川康雄氏の存在を知るまで、私にとってメイクアップとは「コンプレックスを隠すもの」「可愛くない自分を可愛い誰かに見せるもの」だった。

 

しかし吉川康雄氏の初の著作『生まれつき美人に見せる』(2015年、ダイヤモンド社)を初めて読んだ時、自分の中でのメイクアップに対する考えががらりと変わった。

吉川康雄氏は著書の中で「生まれつき美人に見せるのがメイクアップの役割」「生まれ持った個性を生かす」ことを繰り返し説いている。

www.amazon.co.jp

 

今でこそ「個性を活かす」こと自体がトレンドであるが、発売当時の世の中はおフェロメイク一辺倒。みんなが森絵梨佳になりたかった時代である。

 

そんな中で生まれ持ったものを活かそうと声を大にして言い始めたこと自体が凄い。

吉川氏の考えやプロダクトに触れて救われた気持ちになった女性は多いだろう。

流行りのメイクや基本とされるメイクが似合わない。

きれいになるためにメイクをしているはずなのに、雑誌に載っている通りにメイクしているはずなのに上手くいかない。自分は救いようのないブスなんだ……。

そんな自分がメイクを自由に楽しめるようになり、さらに美容ライターにまでなるようになったのは吉川氏とCHICCAのおかげだと思う。

f:id:kgmblog:20190303024620j:image

2014年頃まではアイラインやアイシャドウのグラデーションがアイメイクのスタンダード。赤リップも流行っていた時代であった。

私ははっきりとしたアイラインも、アイシャドウの締め色も、鮮やかな赤リップもあまり似合わない。

今でこそパーソナルカラーの影響であると理解しているが、似合わない原因が分からなかった時はものすごく重大な悩みであった。

そんな中で出会った吉川氏のメイクアップ。

「薄く発色させていけば似合わない色はない」「アイラインは引くのではなく埋める」……などなど。

吉川氏の提案するメイク法の衝撃は今でも忘れられない。

f:id:kgmblog:20190303024653j:image

自分がCHICCAのアイテムを実際に買うようになったのはもう少し後のことだが、初めてCHICCAのコスメを使った時も吉川氏の著書を読んだ時と同じくらいの衝撃を受けた。

なんといってもメイクが楽なのである。

CHICCAのブランドコンセプトは「インビジブルメイク=見えないメイク」。

使う人そのものを美しく見せることを第一に考えられ生まれたCHICCAのコスメは、使う人に難しいテクニックを強要しない。

誰がどれを手に取っても、その人自身を美しく見せてくれる。

「メイクがきれい」ではなく「なんか可愛い」を作り出してくれるCHICCAというブランドはまさに唯一無二の存在である。

吉川氏の凄さは第一にここにあると私は思っている。

もし自分がメイクアップアーティストなら「自分はこんなにきれいな色使いができるんです」「こんなに斬新なメイクができるんです」と言いたげなメイクをモデルに施してしまうと思う。

しかし吉川氏はあくまでもメイクではなく、モデル自身を主役にする。

ここが他のメイクアップアーティストとは違う、彼の個性であるように思われる。

 

 吉川康雄氏が日本の化粧品業界に与えたもの

吉川氏は常に時代の先を行くアーティストである。

艶肌がマストなように思われる日本人のメイク。しかしどこを見ても艶!艶!と言い始めるようになったのは2015年頃からである。

その前まではパウダリーでマットなベースメイクが長らく日本人のメイクアップにおけるスタンダードであった。

f:id:kgmblog:20190303024725j:image

この中で艶肌を提案し始めたのが吉川氏。

ニューヨークで活動していた時期も彼のつくるベースメイクの美しさには定評があったとのこと。当時はニューヨークでもパウダリーなベースが基本であった中、生き物としての美しさは艶に宿ると考えた吉川氏は流行りにとらわれることなく、自身が考える美しさを実現するために思考錯誤を重ね、艶肌を作る方法を独自で生み出した。

それを日本に持ち帰って、自身がクリエイターを務めるブランドCHICCAで艶肌をつくるベースアイテムを開発したのである。

 

まぶたに艶を…というのも今では当たり前だが、これの先駆けとなったのも吉川氏のメイクアップであるように思われる。

直接的にはコスメデコルテの大ヒット商品「アイグロウ ジェム」が濡れ艶まぶたを流行らせたとは思うが、なんていったって吉川氏はその前から「まぶたはセクシー担当。艶を出すべき」と声を大にして主張しているのだから。

f:id:kgmblog:20190303024809j:image

そもそも「その人の魅力を引き出すのがメイクアップの役割」という考えも時代の最先端を行くものである。

人それぞれの個性を活かしているのがイケてるという流れになってきた近年、CHICCAが若い層にも多く支持されるようになってきたのはブランドのフィロソフィーに時代が追い付いてきたということであろう。

 

吉川康雄氏退任から考えられること・思うこと

他にも彼の功績は様々あるが、そんな日本を代表するメイクアップアーティストの活躍の場が一つ無くなってしまうのは非常に残念なことである。

多様性が叫ばれる今こそ、吉川氏のつくるCHICCAを必要としている人は多いはず。

確かにCHICCAは価格帯がやや高めであるし、店舗数も少ない。マスに受けているブランドとも言えない。

しかしニッチながらも業界の最先端を行くセンスを持ったブランドが終わりを迎えるというのは今後の日本のコスメ業界の先行きが不安になってしまう。

なによりもしんどいのは化粧品業界大手がハイセンスなクリエイターが活躍する場を一つ無くす判断を下した事実である。

日本の人口が減ってモノが売れない現状もわかる。海外に進出しなければ今後企業として生き残っていけないというのもわかる。

しかしだからといって日本を代表するアーティストのブランドを切り捨てるかね…と悲しくなってしまった。

百貨店のカウンセリングコスメは言ってしまえばエンターテイメントである。

ドラッグストアでも十分に質の良い化粧品を手に入れることが出来る今、わざわざ高いお金を出してカウンターに行って…という一見無駄な行為をする理由はブランドの付加価値やカンターでのサービスに意味を見出しているからである。

私たちは夢を買いに今日も伊勢丹一階の人混みに向かうのだ。

そんな夢を与えてくれる存在が現実的な理由から失われる……。

商売である以上仕方がないことかもしれないが、本当に悲しい。会社のトイレでちょっと泣いた。

f:id:kgmblog:20190303024911j:image

もちろん、RMKのようにブランドクリエイターが退任してもブランド自体は継続するケースもある。

しかしRMKのファンデーションのように爆売れ商品が正直言って無いCHICCAがそれに当てはまるとは悲しいけれど考えられない。

しかもCHICCAは良い意味でも悪い意味でも吉川氏のイメージが強すぎる。

毎シーズン、発表会では自らが登壇し、コレクションの解説をする姿は美容業界の人間だけではなく、ブランドのファンにもお馴染みであろう。

“吉川節”とも言われるその独特な語りを今後聞けなくなるかと思うととても寂しい。

化粧品ブランドの固定ファンを掴む方法の一つとして、やはりディレクター・クリエイターを立てることは非常に効果的である。

CHICCAも吉川氏のメイク哲学に共感して……というファンが多い。

そのブランドが今後新しいクリエイターを迎えても、違和感を持つファンは多いだろう。

言うなれば、クリエイターはブランドにとっての原作者。

冨樫義博がもうHUNTER×HUNTERを描けないので違う人が描きますと言ったらやっぱりそれは違うだろうとみんなが思うだろう。

冨樫義博の描くHUNTER×HUNTERが読みたいように、私たちは吉川康雄のつくるCHICCAを使いたいのだ。いや、HUNTER×HUNTERのことは詳しくないんですけど……。

f:id:kgmblog:20190303024843j:image

吉川氏はブログやSNSを通じてコレクションの解説までしてくれていた。それがきっかけで私は海外のメイクアップアーティストのブログも読むようになったし、吉川氏きっかけに知った芸術家だっている。

吉川氏だってCHICCAというコスメブランドの魅力をつくる要素なのである。

 

吉川氏が自身のメイク哲学を実現するためにつくったものがCHICCAのプロダクトである。

もし彼が新しくブランドをつくることになっても、同じ処方は当然使うことが出来ない。

彼が心血注いでこれが最高と思って出したものを今後彼が紹介することは出来ない。

今後、吉川さんが「メスメリック リップスティック」の新しい色を思いついても、私たちがそれを使うことは叶わない。

その事実が本当に悲しい。



いま私たちにできることは、吉川氏がつくったものを存分に楽しむこと。そして私は美容ライターとしてその魅力を出来る限り多くの人に知ってもらえるような文章を書くこと。それくらいしか思いつかない。

 

今後吉川康雄氏に良い活躍の場ができることを願うばかりである。



www.chicca.jp